結果発表

第21回小説ショコラ新人賞にご応募いただき誠にありがとうございました。
厳正なる審査の結果、奨励賞1名・期待賞1名・キラリ賞2名選出と大変喜ばしい結果となりました。
奨励賞を受賞した野良風さんはデビュー決定!! 今後の活躍をご期待ください!!


◆総評◆




定番のオメガバースものや異世界ものにとどまらず、AIやレンタル○○など、
アイデアに富んだ作品が多く楽しく読むことができました。
しかし、設定やキャラは良いのに、作品としての完成度があと一歩足りない印象でした。
物語を作品として仕上げるうえで意識するべき点を二つあげますので参考にしてみてください。

1)会話に頼りすぎないこと
地の文での説明がないまま物語を進めている人がいます。
会話は状況や気持ちを伝える手段の一つですが、
頼りすぎると登場人物たちの口から出る言葉でしか情報を得られず、
こういうことなのかな?と考えながら読む必要があり、読者が疲れてしまいます。
また、物語の設定や状況説明を丸々登場人物たちに喋らせるのは
会話として不自然ですし客観性に欠けます。
大まかな流れや起こっていることは理解できても状況を詳細に思い浮かべることができません。
さらに、キャラの複雑な感情描写もできないため、共感も得られにくくなります。
映像作品やマンガは視覚情報があるので詳細な説明がなくても内容を十分に理解できますが、
小説では今なにが起きていて、どんな口調や表情で、どんな気持ちなのかなどを書く必要があります。

2)豊かな表現力を磨くこと
全体的に言いたいことは伝わるけれど、表現力が追いついてない作品が多く見られました。
例えば、登場人物が悲しむシーンで「悲しくて涙を流した」のみでは悲しさの度合いが伝わりません。
この場合「込み上げてくる嗚咽を必死になって堪えた」と書いてあったらどうでしょうか?
どれくらい悲しいのかがより想像できると思いませんか?
悲しいや嬉しいなどの形容詞は、状況を説明するうえでは非常にわかりやすい言葉ですが
どんな悲しみなのか細かな違いはわかりません。
それゆえに常にその一言で済ませてしまうと読者は共感できず、つまらなく感じてしまいます。
ラブシーンに置き換えて考えてみるとわかりやすいでしょう。
喘ぎ声がずっと「あっ」や「あん」だけだと、
気持ち良いことはわかってもエロさがなく単調だと思いませんか?

皆さまが書いているのは恋愛小説です。
読者は、受けと攻めが結ばれるまでの過程やそれに伴う感情の機微、
アツいラブシーンなどを求めて作品を読みます。
喘ぎ声ひとつとっても、様々な書き方があるのと同じように、感情表現も工夫しましょう。

かと言って、登場人物が見たもの・感じたことを書き連ねればいいというわけではありません。
情景描写に字数を割きすぎたり、進行上必要のないシーンの感情描写をだらだらと続けてしまっては、
要点がぼやけてしまい冗長になってしまう恐れがあります。
詳細に書くべきところとそうでないところの見極めが大事です。

会話と地の文のバランス感覚や表現力を成長させるためには、インプットが必要です。
BL小説はもちろん、一般小説やエッセイ・ビジネス書などを幅広く読むように心がけてください。

***************************

今回も若干名、規定を守りきれていない方いました。
名前の前に★マークがついている方は評価対象としましたが、
以下のどれか、もしくは複数を守れておりません。
・応募用紙は小説ショコラ新人賞のものを使用してください。
・応募用紙は最終ページに貼付(糊やテープで固定)してください。
・応募用紙は空欄可以外は記入しましょう。
・20字×20行になっていない。ソフト任せにせず設定通りになっているのか確認しましょう。
(句読点のぶらさがり・追い出し設定は字数に数えなくてOKです)
繰り返される場合は故意とみなし規定外と致しますので、よくお確かめの上でご応募ください。

またweb小説などの影響を受けてか、行アキをたくさん入れている方が見受けられます。
デバイス上で読みやすくするための工夫ではありますが、当新人賞では不要の気遣いです。
その行数分は小説の内容をより充実させるために使ってください。



◆受賞作品◆
【大賞】
該当者なし

【佳作】
該当者なし

【奨励賞】
「インソムニアは楽園の夢を見る」野良風

【期待賞】
「ハルノアラシ!」真山密輸

【キラリ賞】
「妓楼の宵に夢を見る」雨宮理久/「翠の桃源郷」森川めい


奨励賞 ──── 賞金 3万円
「インソムニアは楽園の夢を見る」野良風 (原稿用紙 144枚)

◆あらすじ◆
新人モデルの廣瀬絽伊は、母親に捨てられたトラウマによる不眠症に苦しみ、
クラブで仲良くなった女の子と夜を過ごす生活を送っていた。
ある日絽伊は、同じ事務所の先輩であるスーパーモデルの香崎碧とペアで仕事をすることになり、
さらに東京コレクションを目指すことになる。
しかし碧との初めての仕事に二日酔いで遅刻しキスマークを付けていった絽伊は、
その仕事に対しての意識の低さを見た碧に「すげぇ嫌い」と言われてしまう。
碧と共に過ごす時間が増え、彼のモデル業に対する真摯な姿勢に絽伊は
自分がいかに未熟な人間であったかを自覚する。
そして、眠れない絽伊のために添い寝をしてくれたり、
意外と優しい碧への恋心にも気づき始めていた。
そんな時、碧にデザイナーとの不倫疑惑が持ち上がり……。

◆評価 B+◆
BL作品には珍しい攻め視点のお話でしたが、
攻めが受けに対してモデルとしても人としても魅力を感じていることや、
気持ちの変化が丁寧に書かれていて共感できました。
同じモデルでも、新人でやる気がない攻めとトップモデルでプロ意識の高い受け
という対照的な設定でキャラクターの個性を出せています。
攻めのモデルとしての成長が主体になりそうなところを、
モデルとしての目標と受けに相応しい人になるという恋愛面の目的を合致させることで、
仕事と恋愛を平行して盛り上げることができていました。
全体的な構成に問題はありませんが、一部心理描写が足りず盛り上がるべきところで
あっさりと終わってしまう場面があったのが残念です。
例えば攻めが女の子に話しかけられて、受けが不機嫌になるシーンがあります。
攻めが受けの嫉妬をなんとなく察していることはセリフから伝わりますが、
心情は全く描かれていないため、実際は何を考えていたのかがよく分かりませんでした。
もしかして嫉妬してくれている?という期待や、
せっかくモデルとして得た信頼を壊してしまったかも…という不安などの
心理描写があればより面白くなったと思います。




期待賞 ──── 賞金 1万円
「ハルノアラシ!」真山密輸 (原稿用紙 150枚)

◆あらすじ◆
人付き合いはいいが器用貧乏の伊澄と不愛想でマイペースな大樹は
お笑いコンビ『ハルノアラシ』を組んで三年になる。
出会いは高校生。大樹の描いたマンガを偶然読んだ伊澄は、
尖った作風に感銘を受け自分を貫く大樹にかっこいいと告げる。
ただの同級生だった彼らはそれ以来一言も交わすことなく卒業したが、
三年後、お笑いライブを観に行った伊澄はそこで芸人として出ていた大樹と再会する。
大樹の変わらない姿に惹かれた伊澄は衝動的にコンビに誘う。
時が経ちそこそこ人気を得たハルノアラシだが、
なにかが足りないとプロデューサーに言われ自分を責める伊澄。
そんな中、芸人仲間から大樹がコンビを楽しんでいるように見えない、
自分とコンビを組まないかと言われ……。

◆評価 B◆
芸人モノというあまりないテーマが斬新でした。
文章力も高くキャラクターの魅力もあり、楽しく読めました。
設定や世界観だけではなく、ワードチョイスや会話のテンポに芸人らしさを感じられて面白く、
他愛のない会話にも抜かりなく設定が反映されていて感心しました。
他にも、平均点は出せるが一番にはなれない伊澄の苦悩や、
『なにかが足りない』と言われ不貞腐れながらも模索する姿など、
登場人物たちの現実に足掻いている姿が話にリアルに描かれていて、
感情移入しながら読み進めることができました。
ただ、全体的に恋愛要素が薄かったです。視点となる伊澄が恋心に気づくのが遅かったことと、
伊澄より早く好意を持っていたはずの大樹がアプローチをしなかったことが重なって、
中盤までお笑い一色になってしまっていました。
それに加えて、恋愛以外でも大樹中心のエピソードがなかったり
大樹が能動的にアクションを起こすことがなかったため、
読者側に大樹の人物像が伝わらず脇役のような立場になっていました。
視点を変えたり、大樹が伊澄を好きだとわかる描写を増やすと二人が主人公になれたと思います。




キラリ賞 ──── 賞品 5千円分図書カード
「妓楼の宵に夢を見る」雨宮理久 (原稿用紙 121枚)

◆あらすじ◆
遊郭の下足番である誠太郎は、遊女である妹を逃がしたことを同僚に知られてしまい、
黙っていてもらう代わりに仕事を押し付けられる日々を送っていた。
ある日、妓楼にかなりの金持ちであろう倉間が客として現れ、
誠太郎を「身請けしたい」と楼主に申し出る。
疑問に思う誠太郎に、倉間は本当は逃がした妹に頼まれ、彼女の無事を知らせに来たと告げる。
その後も何度も妓楼に足を運び、贈り物をしてくれたり、高級料理を食べさせてくれたり、
優しく甘やかしてくれる倉間のことを誠太郎は好きになってしまい……。

◆評価 B◆
時代特有の単語が文章や会話に上手に組み込まれていることで、
明治時代っぽさが出ており世界観に入り込みやすかったです。
身分差の恋という設定と、誰に対しても気前がよく受けに特別甘い攻めと
劣悪な環境でも卑屈にならず健気な受けというキャラの相性がとても良く、
読者に刺さるものとなっていました。
また冒頭では、店にやって来た攻が初対面で遊女でもない受を身請けすると言い出し、
この後どうなるのだろうと思わせる引きがありました。
しかし、身請け話が受に会うための口実だったと分かってからは、
うやむやになりどこに向かう話なのか困惑しました。
その結果、受の言動や考えにも矛盾が生じているように感じます。
攻が本当に受を身請けするつもりがあることを示し、
それを受が悩んだり邪魔をする人物を登場させたりなど、
身請け話を軸にしたお話にするともっと良くなったと思います。




キラリ賞 ──── 賞品 5千円分図書カード
「翠の桃源郷」森川めい (原稿用紙 146枚)

◆あらすじ◆
上流貴族の子弟のみが通う学校で教師を務める玉凛は、妊娠できる男性『桃花』であった。
その身体は極上と噂され、その希少さゆえに都の貴族たちから求められたが、
静かに暮らすことを望む玉凛は桃花であることをひた隠しにしていた。
しかし桃花には、満月の夜から七日間発情期があり無性に交わりたくなってしまう。
困った玉凛は夜な夜な妓楼に通い始めるが、教え子の礼雪に知られてしまい、
黙っている代わりに一度だけ抱かせてほしいと脅される。
仕方なく体を許した玉凛に礼雪は発情期の間だけ自分を利用してほしいと迫り……。

◆評価 C◆
オメガバース設定をそのまま使うのではなく、発情期が満月の夜から七日間で、
胸に桃の花弁に似た痣が現れ桃のような甘い香りがするなど、オリジナル要素が新鮮でした。
ラブシーンでは発情期にあばら家で、という縛りがある中、
丁寧に前戯する日もあればいきなり押し倒す日があったりと、
流れやセリフがパターン化されることなく書かれていたので飽きずに読み進められました。
ただ、神視点なのか寄り視点なのかはっきりせず違和を感じました。
視点を固定しブレないように書いてください。
(共感が大切な恋愛小説において、神視点はあまり推奨しません)
また、発情期に体を重ねること以外で二人の交流がなく関係が変化しないため、
駆け落ちという結末への説得力が足りませんでした。
中盤、礼雪の兄が礼雪への嫌がらせで玉凛を自分の子どもの家庭教師にしますが、
多少のすれ違いはあれど、関係の変化に繋がるアクションを
受攻ともに起こさなかったためせっかくのエピソードが活かせていません。
受攻二人の関係に焦点をあてて書くことでキャラクターの魅力を伝え、
彼らが惹かれ合うのがわかるようにすると結末への説得力が増したと思います。



選外作品(B~E評価・以下順不同)


B評価
南城アリス「亡国のシレーヌ」/にっきょ「竜王の妃は兎の薬師に嫁ぎたい」

C評価
天ケ瀬なぎ「境界線の向こう側」/舞々「貴女のお気に召すままに」/はる「春の明日になりたい。」
鳴島佑日「強面たれ耳ウサギ獣人に懐かれている!」/遠矢智「狼の本心」
四階「神様と生贄の喧嘩事情」/四宮薬子「白狼オメガは真紅の夜に啼く」
幸里「白皙のα」/綾瀬ねこ「愛喰む吉祥果」/鹿島桜「王子と奴隷の赤い糸」
丹路槇「日日の止り木」/七角けい「ロマンチック・メタモルフォ―ゼ」
米澤豆大福「婚約破棄をして返り討ちに遭った元王太子が年下世話係に溺愛されているようです」
★山口要「ゲイドール拾った」/由佐さつき「You are mine.」
トオノホカゲ「ふたり、この世界の片隅で」
一冴アラタ「オンリーゲイザー」/雫川サラ「その手は、替えがきかないやつでした。」
山内りら「幸せになろう」/松下冬宿「ティアゲイザー」/佐藤紗良「恋するモアイ」
アネモネ「カーテンコールのその先で」/水無月にいち「セックスダイエット」
畑村明生「君だけのDomにして」/子安いおり「ドムの恩返しは甘美な囁きと共に」
さいおんまつね「恋を歌う機械人形(アンドロイド)の感情」/仙道明里「君の瞳の蒼き空」
葉村奏「罪の行きつく先」/海鳴ケイト「たぶん、ずっと好きだった」
名雪リョウ「ドントアイズオンミ―」/夕月雅貴「二度目の恋は車の中で」
伊藤あまね「恋なんて諦めていた僕が転生した異世界で半獣の神官に溺愛されるまで」
★やらぎはら響「やさしい神様」/七都あきら「秘密のオメガは砂漠の踊り子と夜伽で恋をする」
天城凜「その瞳に映る、紫紺の闇」/羽多奈緒「そこに光あれ」
キタムラテオ「世話焼き長男は無愛想侯爵を磨きたい」/★中原涼「タイトルなし」

D評価
小池月「バース性障害につき、アルファになりたい俺はオメガとして絶望的です!」
遠咲菫「箱庭の番」/伊予田いとは「深き森のフクロウのはじめての恋」
天宮叶「聖女Ωは護衛騎士αの手を離さない」/野中にんぎょ「2L(OVE)DK」
灯南吉野「不出来な僕が繰返す」/Keiko「Symphony」/たちばなあみ「レンタルお父さん」
★甘夏せとか「純情モラトリアム」/★古河涼「灰色の虹が出る街で」
雪下針「束縛は甘い輝き」/花咲マーチ「君の心を知りたい」/赤坂摩利支天「奥」
高村未央「アキレス」/春野恵「不完全な僕たち」/紅樹夜「恋に落ちた騎士の帰る場所」


規定外
藤吉めぐみ「三カ月後、別れる彼に贈る溺愛メソッド」(ページ超過・書式間違い)
凡河内さらや「七夕霜恋歌譚」(ページ超過・書式間違い)
くしき妙「追憶のブルー」(ページ超過・書式間違い)
たたた、たん。「ごうまんなアルファ」(ページ超過・書式間違い)
lubme.「オメガの僕はアルファの貴方に指示されたい」(ページ不足)
一東清遥「猟犬の日常」(ページ不足・書式間違い)


 第22回小説ショコラ新人賞の詳細はこちら



>>TOPに戻る